パネルディスカッション② 【創】 教育

多様な交流で磨くグローバルな人づくり

  • パネリスト
    • 鈴木 エドワード 氏(鈴木エドワード建築設計事務所代表)
    • 花井 裕一郎 氏(NPO法人オブセリズム理事、小布施町立図書館まちとしょテラソ前館長)
    • 草本 朋子 氏(白馬インターナショナルスクール準備委員会代表、白馬高校グローバルコーディネーター)
  • モデレーター
    • 大宮 透 氏(小布施町特別職 主任研究員)

(総合司会:松沢斉)
第1部は【創】と題しまして、教育のパネルディスカッションを行います。
学級長を発表します。モデレーター、進行役ですね、小布施町特別職主任研究員の大宮透さんです。
大宮さんは東京大学工学部都市工学科、そして東京大学大学院工学系研究科を卒業後、小布施若者会議の立ち上げに参画したことをきっかけに小布施町に移住されています。役場内のソーシャルデザインセンターの主任研究員として様々な地域づくり活動を展開されております。

(大宮透氏、以下「大宮」)
みなさん改めましてこんにちは。先ほど休憩中に徐に机を変えられまして、私だけ、これ説明がなかったらどうしようかと思ったんですけれども、学級委員長ということでこれから40分くらいモデレーターを務めさせていただきます。

初めにですね、私の自己紹介は先ほどしていただいたんですけれども、今日一番最初の動画、映像を見てですね、僕今日小布施町から来ているんですけれども、本当に一言メモ帳に書いた言葉が、「羨ましい」というふうに書いたんですね。本当にこんなに村のことを好きでいる人たちがたくさんいるという村、こういう機会があったらこれだけの人が集まる村って本当に珍しいと思いますし、一言本当に羨ましいなと思いました。そして今でも非常に素敵な白馬村がこれから教育という側面からどういう風に発展していってどんな場が新しくできていけばいいのか、そんなことを今日は40分間の中でお話させていただければと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

それでは最初にパネリストの皆さんを最初にご紹介したいと思います。まず初めに、鈴木エドワードさんにご登壇いただきます。拍手でお迎えください。
鈴木さんは、鈴木エドワード建築設計事務所の代表をされているんですが、経歴としてはちょっと時間を省略させていただいて、このような形になっているんですけれども、私も丹下健三さんという方が元々東大の都市工を創った先生だということで、ちょっとした接点で先ほど楽しくお話をさせていただきました。次の写真が、ISAKという、私たちの身近にあるエドワード先生の作品としては一番身近かなと思うんですけれども、軽井沢にあるインターナショナルスクールの校舎の設計もされています。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

続いてですね、私も本当に長いお付き合いをさせていただいているんですけれども、現在は福岡の方で活躍されていますが、小布施町の「まちとしょテラソ」という図書館があります。そこで初代の館長をされていた花井裕一郎さん、ご登壇ください、拍手をお願いします。
花井さんは元々フジテレビで番組の演出をしていて、演出家として小布施町に関わられるきっかけを持ちまして、2000年に小布施町に移住されて2007年から町立図書館の館長として、2011年には日本一の図書館に選ばれているんですけれども、当時の仕掛人というか初代館長として事業を推進されていた方です。非常に小さくてコンパクトでとても素敵な図書館なんですけれども、これが小布施町の町立図書館であります。今日は小布施町の話だけではなくて、いろいろとお話いただけたらと思います。よろしくお願いします。

最後にですね、白馬インターナショナルスクール設立準備委員会の代表ということで、草本朋子さん、ご登壇ください。
私、この写真には思い入れがありまして、思い入れというのも変ですね、元々インターナショナルスクールの設立準備委員会が立ち上がったタイミングで記事が出まして、私はそれを読んで草本さんにコンタクトを取って会いに行ったというのが白馬に最近通っているきっかけになったということで、非常にありがたいきっかけだったと思います。草本さんの経歴は、省略させていただきますね、一番大事なポイントとしては、今白馬のインターナショナルスクールを、まだ設立準備委員会ということでこれから立ち上げるために動き出されているという状況になっています。いろんな形で白馬の教育の事情に詳しいということもありますので、その辺りのことも今日はお話いただければと思います。どうぞよろしくお願いします。

それでは早速話題提供ということで、時間も無い中なんですけれども、ぜひお三方から5分くらいで、「5分で」お願いいたします。もう一度言いますね、5分でお願いいたします(笑)。5分でお一方ずつ、今日のテーマが「多様な交流で磨くグローバルな人づくり」ということではあるんですけれども、このテーマに限らず、これからの教育に関して皆さんが思っておられることを自己紹介も交えながら、もう一度言います、5分でお願いできればと思いますので、よろしくお願いいたします。

(草本朋子氏、以下「草本」)
大宮さん、ご紹介ありがとうございます。白馬にインターナショナルスクールを創りたいと思っております草本と申します、本日はよろしくお願いいたします。
白馬インターナショナルスクールはまだ創ろうとしているところで、未だ無いんですけれども、宮坂さんが私と一緒に理事をやってくださると言っていただいておりまして、ありがとうございます。それと、元サッカー日本代表監督の岡田武史さんが名誉顧問をお引き受けくださっています。今日は岡田さんからメッセージをいただいておりますので、まずそちらをご覧いただければと思います。

(岡田武史氏)
FC今治のオーナーをやっています岡田武史です。
この度白馬で百年後を考えるというシンポジウムが開かれるということで、私もぜひ行きたかったんですけど残念ながら所用があり参加できません。私は草本さんの関係で、白馬インターナショナルスクールの名誉顧問という大役を仰せつかっています。なかなかそちらに行けなくて残念なんですけど、私も過去に2度くらい白馬に行ったことがあります。非常に美しい山そして高原、よく覚えてます。今度是非伺いたいと思います。

私が今、今治でやっていることは、サッカーにおいて今治モデルという、小学校や少年団、または中学校高校のサッカー部と一緒になって、一つのピラミッドを作って、そしてその頂点のFC今治が面白いサッカーして強くなれば全国からうちに来たいという若者または指導者が集まってくるだろう、アジアからも来るだろう、そういう人たちがおじいちゃんおばあちゃんだけになった家にホームステイして、おじいちゃんおばあちゃんが英会話やスポーツマンの料理の勉強を始めたり、子供達がタブレットでおじいちゃんおばあちゃんの買い物をしたりと、なんか気が付いたら、この16万の街が妙にコスモポリタンで活気がある、とそういう風にならないか、というような夢を抱いてやっています。また、サッカーだけじゃしれてるなら、J1に上がる時に必要な15,000人のスタジアムを複合型にしてスマートスタジアムにして、そしてそこにいろんなスポーツや健康ということをテーマにしたものを入れて、そういうことで人が集まってくることができないかと、そういうようなことを考えてやってます。それがはたから見ると地方創生に見えるようですけど、本来はサッカーをどうしたら強くなるだろう、我々だけ強くなっても立ってる場所がなくなってはしょうがないというところから始めました。

ただ、我々の企業の理念というのはですね、実は次世代に物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会作りに貢献するというものです。実はこれは僕の全ての活動、野外体験活動や環境保護活動、もうこれも40年くらいやってるんですけど、全ての根源にあるものです。自分にも子供がいます。その子供にどういう社会を残すのか。僕たちは70年戦争のない高度成長という最高の時代を生きて来て、子供たちに1千兆円を超える財政赤字、年金危機、そして隣国との緊張、環境破壊、本当にこのまま死んでいっていいものだろうかと。私が富良野で倉本先生と一緒にやっている自然塾という環境教育のプログラムがあります。今治にも作りましたけど。その中に46億年地球の道、という一つのコースがあります。46億年の地球の歴史を460mに置き換えて我々インストラクターが説明していきます。46億年前地球は今の10分の1の大きさでドロドロに溶けたマグマオーシャンの時代、そして、全球凍結、いろんな時代があって、カンブリア期、最後の2cmのところでホモ・サピエンスが生まれます。そして、温暖化と言われる化石燃料を燃やし出したのは200年前、0.02mmです。そういう話をして、最後に石碑を築きました。そこには、ネイティブアメリカン、アメリカインディアンに今でも伝わる言葉、地球は子孫から借りているもの、そういう言葉を刻みました。地球は、ご先祖様から受け継いだものではなくて、未来を生きる子供たちから借りているもの、借りているものは傷つけたり汚したり壊してはいけない。これを、ネイティブアメリカンが今でも伝えています。ところが、文明人という我々は、今の経済、今日の株価、本当にこのままでいいんだろうかという思いが全てです。

そういう中で、白馬はいろんな意味でネイティブアメリカンの残している言葉を実現しようとしています。私も是非力になりたいと思っています。また、教育に関して、野外体験教育、これは僕の一番得意とするところ、サッカーよりも得意なところなんですけど、これは、白馬を見た瞬間におそらくみんなが、ここで野外体験、子供たちが、何かを学ぶんじゃなくて気付く、体験して気付く場として、遺伝子にスイッチを入れる場として最高の場だろうと。今治でも同じことをやっています。13泊14日無人島体験なんていうのも作りました。白馬ではもっと色んなことができるんじゃないかとワクワクしています。皆さんの今日のシンポジウムの話し合いが成功に終わることを期待しております。ありがとうございました。

(草本)
岡田監督、ありがとうございました。
今日のテーマは白馬、そして私は教育をテーマにお話させていただくということで、私がなぜ白馬にインターナショナルスクールを創りたいと思ったか、その理由は3つあるんですけれども、それについてお話させていただければと思います。まず、教育は地方創生の鍵ということで、地元の方は皆さんご存知ですが、2014年に白馬高校は存続の危機を迎えました。地元の高校が無くなっては大変だということで、私も魅力化のお手伝いをさせていただきまして、自分の知っている有名人の方をお呼びして高校生のために講演をしていただいたりですとか、今日来てくれていますけれども、公営塾を高校に開講するお手伝いをしたりですとか、東京のインターナショナルスクールと白馬高校が連携協定を結ぶお手伝いをしたりですとか、考えつくことは片っ端から一生懸命やらせていただきました。結局白馬村と小谷村が予算をつけて本腰を入れて高校をサポートするということで、地元の熱意が伝わって県が高校の存続を認めてくれまして、ご覧のとおり今はもう生徒数が増えていて、非常に活気のある良い学校になっています。本当に教育というのは地方創生の切り札であると、良い教育があれば人は集まってくるし、教育なくして地方創生はありえないなと強く思いました。

2つ目のポイント、「日本の教育に対する危機感」ですけれども、危機感と言っても、実は私は日本の教育って素晴らしいところがすごくいっぱいあると思っていて、例えばこういう学力の世界ランキング何かを見ましても、日本はまだまだ非常に高い位置にいます。それは文科省が作っている教育課程が系統立ってきちんと知識が身に付くように良く考えられた良いプログラムだからだと思っています。なんですけれども、日本の若者の自己肯定感は他の先進国に比べて非常に低いです。これはなんでなんだろうと考えた時に、いろいろ理由はあると思うんですけれども、一つはやっぱり教育に起因するところがあるんじゃないかなと思います。日本の教育というのはまだまだ知識習得型で、割りとこう与えられたものを一生懸命こなすみたいな部分が多くて、あまり課題解決型とか探求型になっていないと思うんですね。自分で問題を設定してそれを解決して達成感を味わうみたいなことを教育の課程の中であまり感じる機会がないために自己肯定感の低さに繋がっているのではないかと思っていまして、この知識習得型の教育というのは日本の高度経済成長期時代にはすごく良く機能した素晴らしいモデルだったと思うんです。なので、今この次世代、21世紀になって次の世界に活躍できるような人材を創る新しいモデルにアップデートできていけたらいいんじゃないかなと思います。

ここで、国際バカロレアというスイスで考案された教育課程があるんですけれども、これはまさに探求型を追求した、21世紀型のスキルを身に付けたグローバルな人材を育成していこうということを主眼にしたプログラムで、文科省が日本でも導入を強力に進めておられます。日本の学校でも入れているところが多くて、こうした欧米型の教育の良いところを、日本が従来持っている素晴らしい教育に上手く融合させていけば、日本から新しい教育モデルを提案できるんじゃないかなと思っています。

ここで、百年後を見据えた教育ということなんですけれども、2045年には人工知能が人間を超えるという話もありまして、そういった時代に人間に残された領域は何なのかと、そういう人工知能が台頭するような時代に自己実現をして幸福を追求していけるような人を育成できる教育ってどういうものなんだろうかと、そういうことを考えていかないといけないんじゃないかなと思います。白馬という環境がその中で果たせる役割は大きいと思っていまして、先ほどの岡田さんの話にもありましたが、DNAのスイッチを入れるような、そういう経験というのはまさに白馬みたいな環境だからこそできるんじゃないかと思います。自然に対する畏敬の念ですとか、あるいは地球というのは子孫から借りているものだから大事にしなきゃいけないというような想いというのは、まさにこの白馬のような美しい自然環境の中に身を置いてこそ体得できるものなんじゃないかなと思っています。

なので、私はこの自然環境を活かして全人的な教育をするような学校を白馬に創りたいと思っています。本当は公教育でできれば最高なんですけれども、公教育を変えるにはいろいろな制約がありますし、白馬は世界的な観光地を目指していますので、全世界から生徒を呼び込めるような英語で教育を提供する全寮制の学校を創れたらいいなと思っております。地元にはインターナショナルスクールなんかできたって何の恩恵もないじゃないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。実は白馬インターナショナルスクールは学校としては未だ存在してないんですけれども、この春にスプリングスクールを、短期プログラムを開催しました。そこでこういったプログラムを作ったんですけれども、地元の生徒さんに授業を受けていただいたんですけれども、この時に購入した教育用のコンピューター機器が20機ありまして、もったいないので宮坂さんに「ちょっとヤフーの方に来ていただいて村の子どもにプログラミングとか教えていただけないですかね」とお願いしたら「おぉ、いいですね!やりましょう!」とすぐに言っていただいて、この後のパネルで登壇されるヤフーの地方創生推進室長の石田さんがパパッと企画してくださって、今までに2回ヤフーさん主催で私どもが協力という形でプログラミング教室も村の小学生向けに開催させていただいております。

インターナショナルスクールが村内にあればですね、公立の学校に通う子どもにも国際交流の機会があったり、村内留学ができるかもしれなかったり、例えば出前授業をするですとか、いろんなおもしろいメリットがあるんじゃないかと思います。そして、おもしろいことをやっているからと移住も促進されるかもしれません。海外から来た生徒さんたちは親御さんとかお友だちとかを呼んでくれて、観光の促進にもなるんじゃないかと思っています。そして、ここで学んだ生徒さんたちがまた全世界に羽ばたいていったときに、きっと将来白馬に戻ってきてくれるんじゃないかと、世界中に白馬ファンを作るキッカケになれるんじゃないかなと思っています。

この素晴らしい白馬という場所で、次世代に活躍できるようなグローバルな人材を輩出するインフラをぜひ創り上げたいと思っています。エドワードさんからお話があると思いますけれども、軽井沢のISAKで既にそういった試みが行われていて、白馬が次に続けばもしかしたら日本がイギリスやスイスに続く教育輸出国になれる日が来るかもしれない、そういう夢を持って今活動させていただいています。ありがとうございます。

(大宮)
草本さん、ありがとうございます。日本で初めてISAKが世界中から人を集めて、海外の方も集めて高校を創ったということで、今回白馬でやってらっしゃることは、その次の、それを発展させた形で新しいインターナショナルスクールを創りたいということだったかなと思います。また後ほどディスカッションでより深いところを伺っていければと思います。

(大宮)
続いて花井裕一郎さんに話題提供していただきたいと思うんですが、花井さんは先ほどもお伝えしたとおり全国で図書館を、今7つ8つ関わっていらっしゃるということで、本当に新しい時代の図書館を創るパイオニアとしていろいろな活動をされているということで、実は図書館も、教育というとちょっと違うかもしれないですけれども、学びの場としては非常に重要な役割を学校と同じように果たすだろうということで、そういった視点から話題提供していただければと思います。よろしくお願いします。

(花井裕一郎氏、以下「花井」)
「自己紹介と自分の考えを5分で」ということでオーダーが来ていたので、「ビジュアルも」というふうに思ったんですけれども、あまりそのビジュアルで先に走ってもいけないかなと思って、自分の傍にある、今日は100年という数字が出てきていましたので、自分の周りにある数字を出してみようかな、と。その中で5分を少し皆さんの中で共有できればいいなと思いました。

最初は自分の自己紹介、1962年の8月22日に僕は生まれたんですけれども、その後今日も少し紹介していただきましたけれども、20歳を過ぎて東京に出まして、24~25くらいからテレビ局で勤めるようになりました。どうしても高校時代から映像という世界にいきたくて、何が何でもディレクター、演出家になりたい、その想いからいろんなテレビ局の受付に行って「バイトさせてください」と言って、だいたい門前払いされてましたけれども、ある会社の方がアルバイトから救っていただきまして、そして20数年のテレビマン時代がスタートします。

その後2000年に、実は1999年に小布施町に来たんですけれども、その時にテレビ局の取材で来ました。取材をして、少しテレビというものに嫌気が差したというか、自分の中で演出方法が見つからないみたいな感じで、ルーティンしてる番組づくりがすごく嫌になって、その時に小布施町でまちづくりに出会いました。小布施町のまちづくりは35~36年続いていますけれども、その途中で出会ってそこから十数年勉強させてもらうんですけれども、その途中に6~7年くらい経って、図書館を新しくしようということが出てきまして、館長を全国公募するんだと、その時に手を挙げさせてもらいました。25人の候補者が手を挙げたんですけれども、運良く僕が館長ということで、図書館ではヘビーユーザーではありましたけれども、小布施町の図書館はダメダメ図書館だったんですね、本当に小さな小さな、誰が見てもダメダメでしょうと。ただスタッフの人は頑張っていました。ただ図書館というふうに見た限りではダメダメだった、それをどういうふうに発展させていくかというところから、町民の皆さんと切磋琢磨していって、さっきも言っていただきましたけれども、2011年に”Library of the Year”というものをもらいまして、その後も建築賞という、もう一つのLibrary of the Yearというのがあるんですが、2つの賞をいただきまして、一躍全国に小布施町の小さな図書館がなんか変だぞ、おもしろいぞ、と。その変なところって何だというと、図書館のセオリーを全て破る、静かだったところを賑やかにする、食べ物を食べてはいけないところで食べる、飲む、そして走ってはいけないところを走る、要は図書館はみんなの交流の場であって、何をするべきかということをもう一度考え直そうというところから始めました。

そしてそこからトントン拍子に行って、2015年、昨年ですけれども小布施町での勉強も若干終わったかな、と。そして図書館の方も4年前に退館しましたので、今度は全国の図書館のお手伝いをしたいということで、拠点を生まれ故郷であります福岡に移しまして、今回も福岡から参りましたが、今は活動しております。

その中で、僕が大事にしてる「0」というものがあるんですけれども、何かと言うと僕の理念なんですね。「ないのにある」というのが僕の理念です。これを可視化していこう、目の前には見えないものですけれども、エネルギーだったり、人で言えば生い立ちだったり、街で言えば歴史があったり、その見えなくなってくるものをちゃんと可視化して皆さんとコミュニケーションすることによって一歩一歩進んでいくものがあるだろう、と。それが僕の演出家としての仕事ではないか、それを理念にしようと。だから「0」ではなくて、実はここには、この見方をした人の後ろにはいろんなドラマが眠っているのではないかというふうに考えて、「ないのにある」というものを生き方としています。そして今も大宮さんから言っていただきましたが、全国の図書館のお手伝いを7館しています。既に4館終わっておりまして、全部で11館目になりますが、近々では3月20日に福岡県の小さな町で新しい図書館ができます。群馬県の太田市でもゴールデンウィーク前には新しい形の図書館がオープンしますが、詳しく話をするとそれだけで終わってしまいますので、僕のことをヤフーで検索していただくとですね、出てくるのかなと、ここでGを言っちゃいけないですね(笑)

これ、3261という数字が、ほぼほぼ誰もわからない数字だと思うんですけれども、これが今全国で公開されている公共図書館の数なんですね。この公共図書館が、僕が今なんでこの中に入っているかと言うと、この図書館のほとんどが”図書館”になっているのかなと、僕はすごく疑問を持っています。本を貸し出すことだけに一生懸命になっている、実は図書館法という法律があって、それだけではダメなんですね。図書館というのは図書資料というもの、本を含めた図書資料を扱うことによってそこに住んでいらっしゃる人たちにサービスを行う、それが図書館の使命なんです。なのに、一生懸命本のことばっかりやってる図書館が多い、ということはまだまだ法律を守りきれていないんではないのかな、というのが僕の考えで、この3261がもっともっと図書館らしくなることを僕は目指したいな、と思っています。

これ、2001年の15347"人"なんですけれども、これが正職員として働いていた人たちの数なんですが、実はこれがもう5000人減ってるんですね。本来、さっきも教育とつながっているという場所に対して、要は学校の先生がどんどん減っているのと僕は同じかなと、司書と言われたり、司書だけじゃなくてそこで勤める正式な職員という人たちがどんどん今減らされている。それなのに、図書館は大事だとか言っていること自体が、まだまだ遅れているのではないかと思っています。

そして一番言いたいのはここなんですけれども、今日は100年という数字ですけれども、僕は100年の中に一回50というポイントがあるんじゃないのかなと思っています。それは僕が見た図書館なんですけれども、全てではないですけれども、今20代くらいの方々のお父さん・お母さんたちのお子さんがいらっしゃいます。そのお子さんが大人になる、また20年くらいしたら22,3,4となるわけですよね。その人たちが大人になってまたお子さんが生まれて、またそこから20年が経つ…、そうするとだいたい50年くらいの周期で一つのサイクルが終わるのではないかな、と。というのは、今図書館を創るときのターゲットというのは、この小さなお子さんたちを支えているお父さん・お母さんではないかな、と。この人たちに図書館というものを一生懸命利用していただいて、図書館はまちづくりの中心にあるんだという考え方を持っていただければ、2サイクルの50年後のときには、もう図書館は生活のサイクルの中に入っていくだろうと。そしてまたさらに50年、2回目を繰り返せば、日本の図書館はやっと本物になっていくのではないかな、と僕は思っています。

なので僕は生きている間に、1回目もたぶん無理だろうと思うんですけれども、2回目ももっと無理で、でもそれを支えるものとすれば、今日ずっと最初から語られているように、理念だったり経済の興し方だったり、いろんなことが50年でやってくるのかな、僕は図書館から見たらそういうふうに思っています。

この236というのが、こないだ調べましたら、白馬における未就学児の数ですね、未就園児と、幼稚園・保育園のお子さんの数です。この子たちにターゲットをしぼりませんか?と。このターゲットを絞ると同時に、今の中学生・高校生たちとどういうコミュニケーションをしなければいけないか、いつも一番下を決めて、そこから上の段階とコミュニケーションしていって、そして僕たち大人たちが今度はどういうふうに関わっていくか、という新しい図書館の関わり方を考えていかなければ、いくら本が好きな、本だけの図書館を創っても全然無駄になる、生活と密着して、生活に必要なんだ、歴史には必要なんだ、あらゆる場面から図書館というものに全てが集中して、それを未来へ伝えていく。そのために僕たちが存在しないこの100年というものを語っていかなければならないのではないかなという考えで今日はやってきました。ありがとうございます。

(大宮)
ありがとうございます。
図書館というのは生涯学習の場というイメージを皆さん持たれていて、多くの地域の図書館に行くと、どちらかというとご高齢の方が利用されている場合が多いかなと思います。それは非常に素晴らしいことかと思うんですが、一方で今の花井さんのお話だと幼児期というか、未就学の、図書館にはなかなか連れて行きにくいというか、「泣いちゃったらどうしよう」というような、そういう子たちが居やすいような環境というものが、実は図書館には求められているのではないかと、力強いメッセージをいただきました。

(大宮)
実は今、花井さん結構話し過ぎたんですけれども、最後に鈴木エドワードさんに、5分でまとめていただきまして、ディスカッションに移りたいと思いますので、エドワードさんよろしくお願いします。

(鈴木エドワード氏、以下「鈴木」)
私は独立して間もない頃、東京都内の西町インターナショナルスクールという学校を設計させていただき、最近になって母校のセントメリーズインターナショナルスクールも設計させていただきました。そんな関係から、軽井沢のISAKという学校の設計もお願いしますという依頼があったんですね。ただその時、谷家さんというファウンダーが話してくれたISAKという学校のビジョン・ミッションが大変素晴らしかった、大変共感できたので、建築家だけではなく、個人としてもお手伝いさせてくださいということで、妻と私は最初から5年間、理事を務めさせていただきました。なぜ私がそういった感銘を受けたかというと、全寮制のインターナショナルスクールというところにポイントがあったんですね。残念ながら今は無いんですけれども、私が通っていた時代にはセントメリーズにも寮制度があり、8歳から11歳までの間、そこで生活していました。そういう環境の中で、こんな小さい時からいろいろな国々の子どもたちと一緒に毎日24時間一緒に過ごしていて、卒業して大人になると、他国民との戦争だとか紛争というものはどこかにすっ飛んでしまうわけですね。自然とそういう考えが無くなっていく、そういう環境がこれからの世界を自然に創ってくれるのかな、ということから理事を務めさせていただきました。

ちょっと話は変わりますが、つい先週、五井平和財団という財団の五井平和賞という授賞式がありまして、今年はナイジェリアの女性のエンパワーメントの運動をなさっている方が受賞しました。その他、毎年小中学校、そして成人の2部門での作文のコンクールがあります。今年は1万人以上の応募があったようですが、まず成人の方で受賞したのが、日本の女の子で大学生でした。彼女が書いた文の中で語っていたのは、彼女はインドネシアでボランティアの活動に参加したと、それが教育の場だったそうなんですね。ただ驚いたのは、その学校のサマースクールの生徒たちが書いた作文の内容に非常にショックを受けたと。それは何かと言うと、教育からの夢がテーマだったそうなんですけれども、子どもたちが語った夢が5~6種しかなかった、要するに5~6種の職業からしか彼らは選ぶフレキシビリティ、オプションが無かった。結局それ以上のことを知らないまま、学校を卒業するような状況になっていたんですね。彼女が作文で謳ったのは、やはり教育という環境においては、夢を育てる、夢を与えてくれる、夢を選べるオプションの環境が必要なのではないか、と。そして「夢教育」というテーマで彼女は作文を書きまして、チャンピオンシップを受賞しました。

小中学校の部では、アメリカの中国人の女の子の学生さんが、競争と協力について書いたんですね。ちょっと自分ごとで恐縮ですけれども、私はセントメリーズというインターナショナルスクールで自慢ではないですが優等生だったんです。非常に競争力にプライドをかけていた学校ということもあったせいか、例えば毎月全校生徒が体育館に集まっては、各クラスのトップから5位までが呼ばれてステージに立って表彰されるんですが、私は負けず嫌いでいつも一生懸命頑張ってはナンバー1のトップ生徒として卒業できたものの、はっきり言って学校で勉強してきたことは全く覚えていない(笑)、こういった競争心をかきたてる今までの教育環境というのが、果たしてこれでいいのだろうかと非常に疑問を抱いていたわけですね。アインシュタインも言ってましたけれども、動物の世界で評価価値を判断する基準が、木を上手く登れるものが優秀だとしたら、魚などは一生自分はバカだったんだと死んでいくわけです。そういう今の教育システムというのは、昔はそれでよかったかもしれないけれども、今は全く環境が変わってきているんですね。果たして今までのパラダイムで良いのかどうか、みんなで一緒に考える時期にきているのかなと思います。以上です。

(大宮)
ありがとうございます。
お三方にお話をいただいたんですけれども、実はもう残り5分ということでですね、なかなか厳しい状況ではあるんですが、最後に皆さんから一言ずついただきたいと思っていまして、まずエドワードさんと花井さんにはですね、草本さんから教育の内容とか社会の変化がこうあって、それに対応した教育をしていかなくてはいけない、また白馬ではこういうことを活かせるんじゃないかと、そういったお話があったんですけれども、最初にお二人に伺いたいんですけれども、今非常に急激に社会が変化している時代だと思うんですね。そういった時代の中で、教育というものがこれから10年、20年、100年とは言わず、50年先を見据えた時に、今こういうふうに変わっていかなくてはいけないんじゃないかというポイントがもしあれば、一言ずつお伺いしたいです。

(鈴木)
先ほどの話につながることなんですけれども、情報収集だけであれば、ヤフー、グーグル、ウィキペディアなどで検索すれば十分得られる情報はあるんですね。ただやはり学校の環境の大事なところは、子どもたちが集まって、人が集まってそこで同じ時間・空間を共有するというところに意味があるんだと思うんですね。したがって、先ほど競争と協力体制の話をしましたけれども、どうやったら人々が気持ちよく仲良く、ある共通の目的に向かって一緒に頑張って協力し合って、そういう成功を得られるか。そういう人が集まるコンテクストがやはり教育の場として、協力体制を自分の身に付ける場として重要なのかなと。そういう意味では、やはり時間だけではなく協力できる空間が形であるべきなのかなと思います。

(大宮)
ITだったりとかいろいろなものが発達して、学校という場が要らなくなるんじゃないかという議論もあると思うんですけれども、むしろそういう時に空間が大事になるというお話ですね、ありがとうございます。
花井さん、いかがでしょうか。

(花井)
「良い意味で」ですけれども、妄想力が足りないと僕は思っていて、出てきた創造性と、それを演出する演出術ということと、編集するエディット力ということ、この3つのことが、僕は体験からしてもすごく足りてないなと思っていて、ちょっとだけ生徒を教えた時もあるんですけれども、その子たちは教えればやれるんだけれども、そこから自分で努力して妄想の仮説を整えながら演出して、最終的には考えたことを全部入れ込もうとして落としていくとか、演出能力がわかってないんですよね。そういうふうに一つの物事でも、さっき夢という話もありましたけれども、夢をどうやって実現に持っていくかというときの、良い意味での妄想力とかも必要だし、そこら辺が日本の教育の中では足りてないという、僕はそういう教育をしてもらったことがなかったと思っていて、反省も込めて生徒たちと数年間関わった中では一生懸命やっているつもりでしたけど、今からでも、僕の立場から言えば、それができるのは学校と協力する図書館かなと思っています。

(大宮)
ありがとうございます。図書館が学校という教育現場にも関われるような可能性があるんじゃないかと。特に花井さんが得意な妄想力というか、妄想していろんなものを構想する力というものがこれからもっと育まれていくべきなのではないかというお話だったと思います。
最後にですね、地元代表というか、僕らがみんなよそ者だということもありまして、白馬に住まれて白馬でインターナショナルスクールを創りたいという夢をまさに持っていらっしゃる草本さんの方からですね、100年後、ちょっと大きな話なんですけれども、まぁ50年でも良いんですけれども、100年後にどんな風景がこの街に広がっていたら成功だと思うのか。宮坂さんがさっき「これは成功なのか」という話をされていたと思うんですけれども、教育というものを通じて、どんな場面だったりどんな風景が生まれたら草本さんにとって成功なのかなということだけ、一言お聞かせください。

(草本)
そうですね、やっぱり山々とか田園風景がそのままで、私白馬の一番すごいところは、北アルプスがばーってあって、その下に水田がわーってあって、農業がきちんと営まれているところなんだと思います。子どものアルペンの大会とかでいろんなスキー場に参りましたけれども、こんな田園風景が山の目の前に広がっていて、集落が自然にあるところって、本当にあんまりないと思うんですね。なので、この景観はぜひ死守して、最初のビデオの丸山庄司さんの言葉にもありましたけれども、やっぱり農業が景観を守るというのは本当にそうだと思うんです。そういった景観が今と変わらず存在している中で、今も白馬は9000人いる住民のうち300人近くが一年中定住している外国人、デイヴさんとかうちの主人もそうなんですけれども、それがよりコスモポリタンに無理なく、ビデオの中で俊郎さんがおっしゃっていたみたいに、それぞれが違いを受け入れて、お互いに違いを尊敬し合って、ハーモニーの中で過ごしていけるような、例えばインターナショナルスクールでナイジェリアから来た子がおじいちゃん・おばあちゃんの稲刈りを手伝ったりですとか、そういう光景が自然にあるような白馬だったら素敵だなと私は思います。

(大宮)
ありがとうございます。
本当はあと30分くらい議論したいところではあるんですけれども、ここで教育のパネルディスカッションを終わりにさせていただきたいと思うんですが、最後に一言だけ私の方からまとめさせていただきますと、今日のお話の中では、やっぱり白馬ならではの教育、宮坂さんのお話にもあったと思うんですが、白馬でしかできない教育というものをより深めていかなくてはいけないよねというお話と、白馬でもこんなにワールドワイドな教育をやっているんだと、実は東京よりもどの世界よりも白馬が一番先進的な教育をやっているんだと、そういった時代の変化に応じた教育両方がミックスした形というのが、今後白馬で達成されていくと非常に良いのかなということを、お話を聞いていて私自身は思いました。
拙い司会だったんですけれども、時間オーバーになってしまったんですが、これでディスカッションを終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。